高血圧症とは?日本人の2人に1人が抱える重大な国民病
高血圧症とは
血圧とは、心臓が血液を全身に送り出すときに、血液が血管の壁を押す圧力のことで、120/80mmHg未満を「正常血圧」と呼びます。
診察室で測定した血圧が「収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上」または「拡張期血圧(下の絵血圧)が90mmHg以上」の場合に「高血圧」と呼びます。そして慢性的に高血圧を呈している状態を「高血圧症」と呼びます。高血圧の状態が続くと、血管の壁に強い圧力がかかり続け、血管が厚く・硬くなる「動脈硬化」を引き起こします。
自覚症状がない「サイレントキラー」
高血圧の最も注意すべき点は、自覚症状がほとんどないことです。そのため「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれ、気づかないうちに血管へのダメージが蓄積していきます。
放置すると動脈硬化が進行し、脳卒中(脳梗塞・脳出血)や虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、心不全、腎臓病など、命に関わる重大な病気を引き起こすリスクが高まります。
なお、高血圧と診断される手前の段階である「正常高値血圧(血圧がやや高めの状態)」であっても、脳卒中や心臓血管病のリスクが高くなることが知られています。(※具体的には、上が120~129mmHg、下が80mmHg未満の状態でもリスクは上がり始めます) このことからも、血圧を「正常血圧」に保つことの重要性がうかがえます。
日本における高血圧の現状
日本では、推定される高血圧者数が約4300万人にのぼり、20歳以上の約2人に1人が高血圧とされています。まさに「国民病」といえる状況です。
しかし、実際に血圧が適切に管理されている人は約27%にとどまっています。高血圧は脳卒中や心臓病の最大の危険因子であり、毎年およそ17万人が高血圧関連の疾患で亡くなっているとされています。
健康を守るためには、血圧をしっかりと管理することが非常に大切です。
高血圧症の危険性
高血圧が続くと、血管の壁は常に強い圧力にさらされ、次第に厚く・硬く・もろくなっていきます。この状態が「動脈硬化」です。
動脈硬化が進行すると、血管の内側が狭くなったり、血栓(血のかたまり)ができて詰まりやすくなったりします。
こうして進行した動脈硬化が、命に関わる重大な合併症の引き金となります。
心臓へのダメージ
心臓に血液を送る血管(冠動脈)が狭くなると「狭心症」、突然完全に詰まると「心筋梗塞」などの虚血性心疾患を起こします。
また、高血圧の状態が続くことで心臓が強い圧力に逆らって血液を送り出し続けるため、心臓の筋肉が肥大・疲弊し、心不全を起こすリスクが高まります。
さらに心房細動と呼ばれる不整脈の発症リスクも上昇することが知られています。
脳へのダメージ
動脈硬化は脳の血管にも影響を及ぼします。脳の血管が詰まると「脳梗塞」、破れると「脳出血」や「くも膜下出血」を引き起こします。
これらは命に関わる危険があるだけでなく、言語障害や手足のまひなどの後遺症が残ることもあり、日常生活に大きな支障をきたすことがあります
腎臓へのダメージ
高血圧は腎臓にも悪影響を与えます。腎臓には非常に細い血管が多く存在しており、高血圧によりこれらの血管が傷つくと血流が悪化し、腎臓の働きが低下します。
このような状態を「腎硬化症」といい、進行すると腎臓の機能が大きく損なわれ、重い腎不全となり、人工透析(機械を使って血液中の老廃物や余分な水分を取り除く治療)が必要となることもあります。腎硬化症は年々増加傾向にあり、人工透析となる原因としては糖尿病に次いで2番目に多い原因となっています。
このように、高血圧は自覚症状がなくても確実に全身の血管を蝕みます。
「症状がないから大丈夫」と放置せず、定期的に血圧を測定して数値を把握・管理すること、そして高血圧を認めた場合には早期に対応することが、将来の健康を守るうえで非常に大切です。
血圧の測り方
血圧は、上腕式の血圧計を用いて朝と晩の1日2回を目安に測定することが推奨されています。
- 朝:起床後1時間以内、排尿後、朝の服薬や食事の前
- 晩:就寝前
測る前は、喫煙・飲酒・カフェインの摂取を避け、1~2分ほど安静にしてください。背もたれのある椅子に座り、脚を組まず、カフ(腕に巻く帯)は心臓と同じ高さにして測ります。
1回の測定につき原則2回測り、その平均値を記録しましょう。高血圧の診断や治療効果の判定には、少なくとも5日間(できれば7日間)の朝・晩の平均値を使うことが推奨されています。
左右の腕で血圧に差がある場合には高い方で測定しましょう。なお、血圧の左右差が大きいい場合には別の病気(腕の血管が狭くなっているなど)の可能性もあるため受診の際にご相談ください。
毎日の正確な記録が、自分の血圧の状態を把握し、適切な管理を続ける上で役立ちます。
高血圧症の原因
高血圧には大きく分けて「本態性高血圧」と「二次性高血圧」があります
本態性(ほんたいせい)高血圧
高血圧の大多数を占めるのが本態性高血圧です。特定の病気が原因ではなく、さまざまな要因が重なって発症します。本態性高血圧に影響を与える要因には以下のようなものがあります。
- 塩分の過剰摂取
最大の要因の一つです。塩分を摂りすぎると、血液中の塩分濃度を薄めるために体内の水分量が増え、結果として血圧が上昇します。
- 肥満
- 運動不足
- アルコール摂取
- ストレス
- 睡眠不足
- 加齢
- 遺伝
- など
二次性高血圧
頻度は少ないですが、他の病気や薬剤が原因で起こる高血圧もあり、二次性高血圧と呼ばれます。このタイプの高血圧は、降圧薬でなかなか血圧が下がらない治療抵抗性高血圧の原因となっていることがありますが、原因となる病気の治療や薬剤の調整によって、血圧が改善することもあります。
主な原因となる病気
- 睡眠時無呼吸症候群
- 睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで体が低酸素状態となり、交感神経が活性化して血圧が上がります。日中の眠気などがなく無症状の場合には見逃されやすいため注意が必要です。
- 腎臓の病気
- 腎臓そのものの機能が低下して起こる「腎実質性高血圧」や、腎臓に血液を送る血管が狭くなる「腎血管性高血圧」があります。
- ホルモンの異常
- 血圧を上げるホルモンが過剰に分泌されることで高血圧が起こる場合があります。なかでも、副腎から分泌されるアルドステロンというホルモンが過剰になる「原発性アルドステロン症」が最も多く、高血圧全体の約5%を占めます。
そのほか、甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、クッシング症候群などの病気でも高血圧がみられることがあります。
薬剤による高血圧
一部の薬剤が血圧上昇の原因となることもあります。
代表的なものには、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)、ステロイド薬、経口避妊薬(ピル)、一部の漢方薬などが挙げられます。
薬の減量や中止によって血圧が下がることもありますが、自己判断せず主治医と相談の上で対応することが大切です。
高血圧と言われたことのない方でも、上記のような病気や薬剤に心当たりがある場合には、高血圧が隠れていないか、日ごろから血圧をチェックする習慣が大切です。
高血圧症の治療
高血圧治療の目的は、単に血圧の数値を下げることだけではありません。最も重要な目的は、血圧を適切に管理することで、将来起こりうる脳卒中(脳梗塞・脳出血)や心筋梗塞、心不全、腎臓病といった、命に関わる重大な合併症を予防することです。
治療は「生活習慣の改善」と「薬物療法」の2つを柱として進めます。
生活習慣の改善
まず基本となるのが、血圧を上げる要因となっている生活習慣を見直すことです。
お薬を開始した後も、これらを継続することが非常に重要です。
食事療法
治療の最も中心となるのは食事療法です。日本人は塩分(ナトリウム)を摂りすぎる傾向にあり、高血圧の最大の原因となっています。まずは1日の塩分摂取量を減らすこと(1日6g未満が目標)から始めます。
またカリウムを積極的に摂ることも重要です。カリウムにはナトリウムを体外へ排泄する作用を促進する働きがあるため、カリウムを十分(成人男性 3,000mg/日以上、成人女性 2,600mg/日以上)に摂取することが推奨されています。
※ただし、腎臓が悪い方はカリウムの排泄機能が低下している場合があり、カリウム過剰となる危険性があるため注意が必要です。
ナトリウムを減らし、カリウムを十分摂取するためには野菜や果物、低脂肪牛乳やコーヒーなどの摂取が有効です。また、DASH食や地中海食と呼ばれる食事パターンは、カリウムだけでなく、カルシウムやマグネシウム、食物繊維などを多く摂取でき、血圧低下や脳卒中、心臓血管病などのリスク減少効果が報告されており推奨されています。
運動療法
高血圧症の治療において、運動も欠かせません。ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動だけでなく、スクワットや腕立て伏せのようなレジスタンス運動(筋力トレーニング)でも血圧を下げる効果があることが報告されています。
一人ひとりの状態や生活に合った運動を見つけ、継続することが大切です。
なお、高負荷のトレーニングは血圧が上がってしまうため、”ややきつい”程度に留めることに注意が必要です。
その他
肥満の解消(適正体重の維持)、節酒、禁煙、十分な睡眠、ストレス管理も血圧管理に重要です。
薬物治療
生活習慣の改善を行っても血圧の目標値が達成できない場合や、血圧が非常に高い場合、あるいはすでに心臓病や腎臓病などの合併症があり、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高いと判断される場合には、お薬(降圧薬)による治療を併用します。
降圧薬には、血管を広げる薬、体内の余分な水分や塩分を出す薬(利尿薬)など、多くの種類があります。患者様の血圧の状態や合併症の有無などに応じて、最適なお薬を1種類、または複数を組み合わせて処方します。
生活習慣の改善によって血圧が下がり、降圧薬を中止することができる場合もありますが、無理な休薬は再び血圧が上昇し危険な状態を招くこともあります。休薬を希望される場合や内服の継続が困難な場合には、お気軽にご相談ください。
高血圧症の治療においては、無理なく継続することが何よりも大切になります。
お薬のこと以外にも、ご不明な点やご不安な点などありましたら、何でもお気軽にお尋ねください。